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椎名林檎トリビュートアルバム「アダムとイヴの林檎」レビュー・感想

アダムとイヴの林檎

今までトリビュートアルバムって自分が好きなすごく良い曲が数曲入っていて、あとは「この曲は知らねぇ」「この人知らねぇ」ということが多かった。

アダムとイヴの林檎はそんなのが一曲もない。それは自分が椎名林檎のファンで、このアルバムの全ての曲が椎名林檎の曲だからというのはもちろんなんだけど、それ以上に全アーティストがガチで林檎さんに挑んで来てる感じが半端ないのだ。

20周年を記念するお祭りアルバムというよりは各アーティストが椎名林檎の楽曲をいかに自分のものにするかという競技のような、試合のような。例えるならオリンピックのフィギアスケートで各選手の演技をドキドキしながら見守っているような。そんな感覚を覚えた。

というわけでアダムとイヴの全曲感想書きたい。

「アダムとイヴの林檎」全曲レビュー・感想

正しい街

「あの日飛び出した〜」

CDを再生して、もうこの第一声だけで「!!!!」。19年前に吹き込まれた林檎さんのヒリヒリする声が、今日に草野さんの柔らかな声で再生される。デビュー20周年の林檎さんの名曲が、結成30周年のスピッツ草野さんの歌声と、亀田さんプロデュースと、ミスチルとアジカンと雨パレの演奏で蘇らせる。もうなんか情報量多すぎだし時空を超えすぎててなにがなんだか。ちなみにthe ウラシマ'sのメンバーにアジカンギターの喜多さんが入ったのは、スピッツのライブを見に行った時にたまたま隣の席に亀田さんが座っていて誘われたそう。なにその神々の遊び。

幸福論

ダメだ、歌ってしまう。曲じっくり聴きたいのに身体を揺らしながら歌ってしまうのです。こんなん結婚式の二次会とかで超流したい。絶対流したい。踊りながらお酒飲みながら2人の幸福祝いたい。

レキシにメロディーやその哲学や言葉全てを奪われた幸福論。

曲の前後をセリフで挟む遊び心が実に池ちゃんらしいし、さすが毎度自分のライブで他人の曲で大盛り上がりしてる人なだけある。レキシに人の曲パクらせたら右に出るものはいないっす。

丸の内サディスティック

ちょっとゆるさのある丸サディがシリアスになって戻ってきた。椎名林檎の代表曲とも言えるこの曲を宇多田ヒカルに託す感じが親友っぽくて良い。小袋成杉さんって宇多田ヒカルのツレぐらいの認識しかなかったんだけど、先日小袋さんのファーストアルバム「分離派の夏」を聴いてから一瞬でファンになった。そしてやっと気づいた、丸の内サディスティックを宇多田ヒカルと小袋成杉でカバーするの贅沢すぎません??「終電で帰るってば池袋」の宇多田ヒカル感。宇多田ヒカル以上に綺麗なんじゃないかってほどの小袋さんの声。贅沢で美しくてかっこよくて上質で......この曲を表せる形容詞が足りない。

シドと白昼夢

椎名林檎の曲が海を渡るとこんな感じになるのかなぁ、とか異国の地で現地の人々に歌い継がれる椎名林檎、みたいなフィクションまで想像してしまった。椎名林檎 × カフェって今まであんまり想像したことなかったけどこれなら余裕でドトールで流れてるよね。コーヒー頂戴。

茜さす 帰路照らされど...

不穏で不安なピアノに掴まれる。そこに被さる藤原さくらさんの気だるい声に掴まれる。この曲をこの人に歌ってもらうことに決めた人誰ですか?林檎さんですか?そうですか、天才。茜さすが2018年版に生まれ変わった。

都合のいい身体

最初の穏やかなシンセから転調してロックになる展開めちゃめちゃかっこいい、林檎さんのよりロック!椎名林檎の歌って「女」のことについてしか歌われていないのに男性が歌ってもちゃんとかっこいいからずっとすごいんです。

ここでキスして。

これ歌ってた当時の林檎さんのほうが若いのにカエラちゃんのほうが若さと爽やかさが感じられる不思議。伸びる歌声が聴いていてほんと心地良い。林檎さんが歌っていた時の歌詞の中の主人公に比べてカエラちゃんの歌っているほうの主人公はかわいくて重たくない感じ。「ごめん!」って謝ったら許してもらえそう(ちょっとなに言ってるかわからなくなってきた)。

すべりだい

すべりだい大好きなのですごく期待してたんだけどその期待を20000倍上回ってくれた感じ!三浦大知さん、男なのにすべりだいこんな色っぽく歌えるのあんたしかおらん。アレンジもシンプルなのに何故こんなにかっこよく聞こえるのか。「落と・し・た」の詰まる感じとか「導いていたぁぁぁ」とかかるエコーとか間奏のひっかかるシンセの音とか所々に配置された遊びが本当に最高。このアルバム全部に言えることだけど天才と天才を混ぜると危険。

本能

ここで林檎さん本人の声聴けるのがこのアルバムのスパイスになっていてめっちゃ良い。ラップの歌詞も本能へのアンサーソングになっていてじっくり読むとまた面白い。18年の時を経た最高にエロくてかっこいいアンサー。本能むき出し。

罪と罰

AIさんが歌うならこの曲しかないだろってぐらい、もう曲と名前見ただけでぴったりだと思ってた。これでもかとゴスペルに攻められて聴きながら震える。林檎さんの歌ってるのは1人の女から攻められてる感じだったけど、AIさんのは神から裁かれてる感じ。それくらい世界が広がった。

カーネーション

まず井上陽水さんにカーネーション歌わせる選曲が上手すぎて感動する。陽水さんの新曲でしたっけっていうぐらいカーネーションを我がものにしていて、芸歴49年のミュージシャンってとんでもねえなと思いました。

自由へ道連れ

24年前、アイドル発掘のオーデイションと知らずにホリプロのスカウトキャラバンに出場した林檎姉さん。あなたの曲をアイドルが歌う世界を、その頃は誰も想像していなかったでしょう。私立恵比寿中学、初めて聴いたけどめっちゃいいですやん。耳元で囁かれてドキっとする。

NIPPON

林檎さんはこここう歌うよなぁとかLiSAさんの歌を聴いているのに逆に林檎さんの声や歌いかたがくっきりと浮かびあがってくる不思議。そして今まで何度も聴いたNIPPONを初めて聴いたときぐらいの興奮と新しさが襲ってきた。cheers!cheers!この曲オープニングのアニメが放映される未来が見えました。

ありきたりな女

私この曲椎名林檎の曲の中で10本の指に入るぐらい好きなんです。母になった喜びと寂しさがないまぜになった複雑な感情が歌詞からも曲からも感じられて。松さんが歌うと林檎さんの女感よりも圧倒的に母感が響いてくる。私お父さんだけど母親になった女性の気持ちがわかった気がして泣いてしまいました。

このアルバムを正しい街から始めてありきたりな女で終わらせるという曲順を決めた人に「まじであんた椎名林檎のことわかってんね!」と言いたくなったが曲順を決めたのは椎名林檎本人だろうと気づいた。

まとめ

椎名林檎さんが今まで参加してきたスピッツのトリビュート「一期一会」、ユーミンのトリビュート「Dear Yuming」、宇多田ヒカルのトリビュート「宇多田ヒカルのうた -13組の音楽家による13の解釈について-」を聴きながら、その度に「もし林檎さんが歌われるなら......」と妄想を膨らませていた日々が懐かしい。

20周年、ついにその果実が実った。

アダムとイヴ達に収穫されたその果実はとても、贅沢な味がした。